「思い立ったが吉日」なぜあなたは思い立つのか?
あなたが「思い立つ」脳科学的理由
「思い立ったが吉日」ということわざがあります。
あれをやってみたい、これを始めてみたいなど、ときめく瞬間がありますが、なぜ私達は「思い立つ」のでしょうか?今回はモチベーションに関する知見を交えて説明したいと思います。
私達のモチベーションはどこからやってくるのか?
以前の記事(「好きこそものの上手なれの脳科学」)の中で触れてはいますが、私達のモチベーションには二種類あります。
一つはアメとムチで動くような外発的モチベーションです。
もう一つは外からのご褒美なしに自己発火的に燃え上がるような内発的モチベーションです。
では、この内発的モチベーションがどこからやってくるかというと、成長の喜びそれ自体からと考えられています。つまり得意なものは、ちょっと練習するだけでもどんどん上手になっていくので、それだけ楽しくモチベーションも高まるという仕組みです。
しかし、最初はワクワクしていた趣味にしても仕事にしても、どこかでマンネリ化してつまらなくなってしまうことがあります。これはいったいなぜなのでしょうか?
限界効用逓減の法則(げんかいこうようていげんのほうそく)とモチベーション
少々硬い言葉ですが、経済学分野で使われる言葉に限界効用逓減の法則というものがあります。
これはビールを思い出すと分かりやすいかもしれません。最初の一杯は得られる喜びも大きいのですが、杯を重ねるにつれて得られる喜びも少なくなっていきます。実は学習においても同じようなことが起こっています。
学び始めは成長も早く、その分喜びも大きいのですが、学びが進むにつれて喜びも徐々に少なくなってしまいます。
こういった時、私達の心はどのように変化するのでしょうか?
学習における探求モードと探索モード
人や動物を対象にした研究からは、私達の行動は大きくは探求モードと探索モードからできていると考えられています。
探求モードというのは一つのことに深くコミットしつづける状態です。いわゆる「ハマっている」状態です。
それに対して探索モードというのは、新たな喜びを求めて探索している状態です。
人を始めとする様々な生物は、この探求モードと探索モードの二つをいったり来たりすることが様々な実験から知られています。これは、資源が限られた自然界で生き延びるための生命の知恵ではないかと考えられています。
なぜあなたは「思い立った」のか?
さて、ここで本題の「思い立ったが吉日」に戻りたいと思います。
そもそもなぜあなたは「思い立った」のでしょうか?
これまでに説明した枠組みで考えるなら、おそらくあなたは探求モードから探索モードに切り替わった段階にいるとも考えられます。そして何かを「思い立った」のであれば、新たな探求対象を見つけた段階にいるとも考えられます。
私事で恐縮ですが、私の例で言えば、先日古本市でフランス語の絵本を見つけて購入しました。
ここ1年ほど、フランス語の文法入門書に取り組んでいたのですが、思い切って勉強方法を変え、購入した絵本の翻訳・音読練習に取り組んでいます。
どんなことにしても「思い立った」としたら、新たなステージに立つチャンスです。
過去の思いを切って、すなわち、思い切って、新たな探求に取り組んでみましょう!
【参考文献】
Gottlieb, Jacqueline, Manuel Lopes, and Pierre-Yves Oudeyer. “MOTIVATED COGNITION: NEURAL AND COMPUTATIONAL MECHANISMS OF CURIOSITY, ATTENTION, AND INTRINSIC MOTIVATION.” (2016).
【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。理学療法士。現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。
趣味は料理、人間観察、読書(人間に関するものであれば社会学から哲学、経済学まで全般)、語学(フランス語)。
屋号のオフィスワンダリングマインドは、心理学のmind wandering(心のお散歩、ぼんやり頭、ひらめきの源泉)に由来。