「門前の小僧習わぬ経を読む」:環境とミラーニューロンシステム
門前の小僧のミラーニューロンシステム
門前の小僧習わぬ経を読むということわざがあります。
これは、普段から日常的に接しているものは自然と身につくことを意味しています。しかし、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。今回はミラーニューロンシステムという言葉を切り口に考えてみたいと思います。
ミラーニューロンシステムとは何か?
ミラーニューロンシステムというのは脳の中のモノマネシステムです。私達は見たり聞いたりしてモノマネすることができますが、これを可能にするのがミラーニューロンシステムです。
脳はいろんな部分がつながっていますが、目や耳から入ってきた情報を自分の体の動きに変える仕組みがあり、これがミラーニューロンシステムと呼ばれるものになります。
こういった仕組みがあるため、赤ちゃんは自然と言葉が話せるようになり、長じては、見様見真似でいろんなことが出来るようになっていきます。
引用:Love to Know: How Children Learn by Observing Behavior of Adults
心の理解とミラーニューロンシステム
そしてこのミラーニューロンシステムですが、単にモノマネで役立つだけではありません。人と繋がる上でも大事になってきます。というのも、このミラーニューロンシステムがあるおかげで相手の気持を推し量ることが出来るからです。
例えば、笑った顔や泣いた顔、怒った顔を見ているときのことを考えてみましょう。笑った顔を見ると私達の気持ちも楽しくなりますし、泣いた顔、怒った顔を見ても同じようなことがおこります。
では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
これには心と体の同調現象が関係していると考えられています。心理学で有名な言葉に、「悲しいから泣くのではなく、むしろ泣くから悲しいのだ」というものがあります。これは心と体は密接につながっていて、体が変われば心も変わる仕組みがあることを意味しています。ミラーニューロンシステムが働くことで、相手と自分の体と心が同調し、相手の気持を察することが出来るのではないかと考えられています。
引用: NATURAL WISDOM COUNSELING LLC “Empathy, Tolerance, and Diversity in Therapy”
さて、このようにミラーニューロンシステムは、相手の心を自分に取り込み、相手を理解するのに役立ちますが、私達は一体何を理解しているのでしょうか。
ミラーニューロンとマインドセット
私達が理解しているのは一言で言えば、相手のマインドセットということになります。もう少し具体的に言えば、相手の価値観、目標、欲求、感情の全てを取り込み、理解しているということになります。
仮にあなたに尊敬する上司がいたとしましょう。
その上司が、何を大事にし、どこを目指して、何になろうとしているのか、どんな気持ちなのかということは、言葉で語られることはないかもしれません。しかし、上司と一緒に仕事をし、その様子を見聞きし、その心と同調することで、あなたの心に上司と同じマインドセットが立ち上げられるということもあるかもしれません。これは親子の間でも一緒です。もしあなたが楽しく仕事をしていれば、仕事は楽しいというマインドセットが伝えられるでしょうし、楽しく勉強していれば、学ぶことは楽しいというマインドセットも伝えられるでしょう。
まとめ
このようにミラーニューロンシステムというのは、いろんな場面で役立ちますが、ここまでのお話をまとめてみましょう。
・ミラーニューロンシステムはモノマネシステムである。
・モノマネを通じて心と体の同調が引き起こされる。
・ミラーニューロンシステムはマインドセットの学びに通じる。
ということになります。
こういったことを考えれば、自分自身の学びであれば現場に身を置くことがもっとも良いかもしれません。
英語を勉強したければ、英語が話される土地に住むのが良いでしょうし、マーケティングを学びたければ、マーケティング企業で働くことが良いでしょう。またもし子供への教育ということであれば、自分自身を大事にすることがもっとも大事になるでしょう。もしあなたが幸せそうに生きていて、楽しそうに学んでいれば、生きることや学ぶことの楽しさや幸せを、きっと子供にも伝えられるのではないかと思います。
「しあわせは歩いてこない だから歩いてゆくんだね」
という歌もありますが、今日も一つ歩みを進めてみましょう!
【参考文献】
・Ayache, J., Connor, A., Marks, S., Kuss, D. J., Rhodes, D., Sumich, A., & Heym, N. (2021). Exploring the “dark matter” of social interaction: Systematic review of a decade of research in spontaneous interpersonal coordination. Frontiers in Psychology, 4447.
・Gallese, V. (2008). Mirror neurons and the social nature of language: The neural exploitation hypothesis. Social neuroscience, 3(3-4), 317-333.
・Lizardo, O. (2007). “Mirror neurons,” collective objects and the problem of transmission: Reconsidering Stephen Turner’s critique of practice theory. Journal for the theory of social behaviour, 37(3), 319-350.
【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。理学療法士。現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。
趣味は料理、人間観察、読書(人間に関するものであれば社会学から哲学、経済学まで全般)、語学(フランス語)。
屋号のオフィスワンダリングマインドは、心理学のmind wandering(心のお散歩、ぼんやり頭、ひらめきの源泉)に由来。