「好きこそものの上手なれ」の脳科学
なぜ好きなことは上達が速いのか?
「好きこそものの上手なれ」ということわざがあります。
このことわざは経験的にも納得しやすいものですが、これはいったいなぜなのでしょうか?今回、このことわざについて脳科学的な立場から考えてみたいと思います。
内発的モチベーションとは何か?
心理学に関する本をめくっていると、内発的モチベーションという言葉をよく聞きますが、これはいったいどのようなものなのでしょうか?
一般的にモチベーションには2種類あると考えられています。
一つは外発的モチベーションと呼ばれるもので、これはパブロフの犬のように外から条件付けられた報酬につられてやる気を出すようなものになります。
もう一つは内発的モチベーションと呼ばれるもので、ご褒美なしに自発的にやる気が出るような自己発火的なモチベーションになります。
しかしながら動物実験では、内発的モチベーション課題を行っている動物の脳の様子を見てみてもご褒美をもらった時に出るようなホルモンであるドーパミンがよく出ていることが観察されています。
では、内発的モチベーションで課題を行っているときには、いったい何がご褒美として感じられているのでしょうか?
学習進歩仮説と成長速度
いくつかの研究から、学習の進歩それ自体が報酬になることが考えられており、これは学習進歩仮説とも呼ばれます(※1)。
スポーツでも仕事でも頑張っていると、どんどん実力がついていって自分の成長を感じることができますが、私達の脳には、この成長自体を喜びとして感じ、この感覚を求めてさらに頑張るという仕組みがあります。これとは反対に自分の苦手なことというのは自分の成長も感じることができず、そのため喜びが少なく、あまり頑張ることができないということもあります。
学習とドーパミン
また学習が定着するためにはドーパミンが重要なことも知られています(※2)。
このドーパミンは欲しい物を追いかけて夢中になっている時に出されるようなホルモンですが、脳の中でも学習に関わる脳領域に働きかけて、学習効率を引き上げる役割があることが示されています。
つまり自分の成長を追いかけてドキドキワクワクして学習しているときには、ドーパミンの分泌も促されて学習効率が向上するということになります。
ここまでの流れを整理すると
・成長そのものがモチベーションの原動力になる(学習進歩仮説)
・好きなことをやっていると学習が加速する(ドーパミン)
ということになり、この2つの相乗効果によって、「好きこそものの上手なれ」が成り立つことが考えられます。
学びと「好きこそものの上手なれ」
ともすれば役に立つことばかりが求められる世の中ではありますが、人生は長く、世界は広く、お金にならないと思っていたことがビジネスチャンスにつながることもよくあります。
たとえビジネスチャンスにつながらないとしても、学びを通して新たな自分と出会うことにつながるかもしれません。
今年は一つ勇気を出して、やりたかったことに取り組んでみるのはいかがでしょうか。
【参考文献】
【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。理学療法士。現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。
趣味は料理、人間観察、読書(人間に関するものであれば社会学から哲学、経済学まで全般)、語学(フランス語)。
屋号のオフィスワンダリングマインドは、心理学のmind wandering(心のお散歩、ぼんやり頭、ひらめきの源泉)に由来。