「早起きは三文の徳」は本当か?【第2回】
睡眠パターンと作業能力
早起きは三文の得という言葉があります。
実際いくつかの研究では、朝型の人は所得が高く(※1)、学業成績も良く(※2)、より健康である(※3)といったことが報告されています。
こういった研究をみると夜型の人は朝型の人に比べてハンディキャップがあるように感じられますが、実際のところはどうなのでしょうか?
今回取り上げる論文は、睡眠パターンと作業能力の関係について調べたものです(※4)。
Are chronotype, social jetlag and sleep duration associated with health measured by Work Ability Index? (クロノタイプ、社会的時差ぼけ、睡眠時間は健康に関連していますか?)
睡眠を評価する指標は色々とあるのですが、この研究では睡眠時間とクロノタイプ(朝型・夜型の違い)、ソーシャルジェットラグというものを使っています。
ソーシャルジェットラグというのは聞き慣れない言葉ですが、これは社会的時差ボケになります。
夜型体質の人は、多くの場合夜遅くまで起きているので、毎日の睡眠時間も短くなってしまいます。 これを解消しようとして週末寝溜めをするのですが、起床のタイミングがずれることで、海外旅行のような時差ボケが生じてしまいます。
このような生活リズムのズレから生じる時差ボケ現象がソーシャルジェットラグと呼ばれるものになります。 この研究では、シフト勤務者の労働能力がどのような要因によって変化するかを調べているのですが、結果を述べると 、
・ソーシャルジェットラグが大きく、睡眠時間も短いと労働能力は低下する。
・ソーシャルジェットラグが大きくても、睡眠時間が長ければ労働能力は低下しない。
・クロノタイプ(朝型・夜型体質)自体は労働能力には関係しない。
ということが示されています。
つまり夜型体質だろうが、ソーシャルジェットラグが大きくなろうが、睡眠時間が確保されていれば、労働能力に影響しないということになります。
つまり睡眠時間こそが労働能力に直結するということになります。
とはいえ、この研究はシフト勤務者を対象にしたものです。定時出社の通常勤務では、夜型体質の人は睡眠時間を確保するのも大変です。
では夜型体質の人はどのようにして睡眠時間を確保すればよいのでしょうか。
睡眠リズムの引き込み現象
前回の記事でお伝えしたように、朝型夜型の違いはサーカディアンリズムの違いに影響されます。
人間のサーカディアンリズムは平均で24.2時間なのですが、これより短いと朝型になりやすく、これより長いと夜型になりやすくなります。 とはいえ、これは絶対的なものではありません。 私達の体内時計は、自然のリズムと同調するように調整されます。 日照時間や気温の変化など、自然の時計に引き込まれるように、私達の体内時計は調整され続けています(※5)。
しかし私達の生活は良くも悪くも自然からかけ離れています。
21世紀に生きる私達は、夜を昼のような明るさに、冬を春のような暖かさにすることが出来ます。また朝から晩まで一歩も外へ出なくても特に困ることもありません。
これは快適である反面、体内時計と自然の時計のずれが大きくなりやすいことも意味します。
※上図引用:Chronotype and Social Jetlag: A (Self-)Critical Review
朝型夜型というのは体質によって大分決まっていますが、生活習慣によっては体内時計を自然の時計に同調させることも可能です。
寒い時期ではありますが、屋外に出て季節の変化を感じたり、夜はブルーライトとは少し距離を置くことで、体内時計のズレを調整しやすくなるのではないでしょうか。
また最近では太陽光に近い照明器具なども発売されているようです。
いろいろと試してみたいものです。
【参考文献】
(※1)Jens Bonke, Do Morning-Type People Earn More than Evening-Type People? How Chronotypes Influence Income, (2012).Annals of Economics and Statistics, GENES, issue 105-106, pages 55-72.
(※2)Okano, K., Kaczmarzyk, J.R., Dave, N. et al. (2019). Sleep quality, duration, and consistency are associated with better academic performance in college students. npj Sci. Learn. 4, 16
(※3)Wittmann, M., Dinich, J., Merrow, M., & Roenneberg, T. (2006). Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiology international, 23(1-2), 497–509.
(※4)Yong, M., Fischer, D., Germann, C., Lang, S., Vetter, C., & Oberlinner, C. (2016). Are chronotype, social jetlag and sleep duration associated with health measured by Work Ability Index?. Chronobiology international, 33(6), 721–729.
(※)Roenneberg, T., Pilz, L. K., Zerbini, G., & Winnebeck, E. C. (2019). Chronotype and Social Jetlag: A (Self-) Critical Review. Biology, 8(3), 54.
【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。理学療法士。現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。
趣味は料理、人間観察、読書(人間に関するものであれば社会学から哲学、経済学まで全般)、語学(フランス語)。
屋号のオフィスワンダリングマインドは、心理学のmind wandering(心のお散歩、ぼんやり頭、ひらめきの源泉)に由来。