「寝る子は育つ」3つの科学的理由
「寝る子は育つ」は子供だけ?
「寝る子は育つ」と言うことわざがあります。
とはいえ、成長が求められるのは子供だけではありません。大人も日々学び成長することが求められています。 大人は子供と違って忙しく睡眠時間を確保するのも大変ですが、果たして「寝る子は育つ」というのは、大人にも通用するものなのでしょうか。
今回は、記憶、免疫、新陳代謝の3つのキーワードで「寝る子は育つ」を説明したいと思います。
記憶と睡眠
私達が何かを覚えるときには、最初は脳の中でバラバラな形で蓄えられます。 しかしながら何度か繰り返し思い出すことでバラバラな情報は繋がり合って、やがてしっかりした一つの記憶として定着します。
こういったプロセスは脳科学では記憶のコンソリデーション(Consolidation)と呼ばれています。イメージ的には下の図のような感じになります。コン(con)は一緒、ソリッド(solid)は固いという意味になるので意訳するなら記憶の圧密化とでもなるのでしょうか。
様々な研究から、寝ている時にこの記憶のコンソリデーションが促されていること、また深い眠りが多ければ多いほど記憶がしっかり定着することが報告されています(※1)。
睡眠と免疫
睡眠はまた免疫機能にも影響します。
風邪を引くと熱が上がったり、傷口に雑菌が入ると赤く腫れたりしますが、こういった反応は炎症反応と呼ばれます。 身体の中にはこの炎症反応を引き起こす物質があり、炎症性サイトカインと呼ばれています。
人や動物を対象にした研究からは、寝不足が続くとこの炎症性サイトカインが増えることや、しっかり寝ることで炎症性サイトカインが程度に抑えられることが報告されています(※2)。 炎症性サイトカインは少なすぎても困るのですが、増えすぎても困ってしまい、程々のバランスが取れていることが大事になってきます。
しっかり寝ることで炎症性サイトカインが程々に抑えられ、免疫系のバランスが整いやすくなるということになります。
睡眠と新陳代謝
子供はしっかり寝ることでぐんぐん大きくなっていきますが、この時身体の中では何が起こっているのでしょうか。
私達の身体の中では、運動をしている時や深い眠りに入っている時に、成長ホルモンやIGF-1(インシュリン様成長因子-1)と呼ばれる物質が放出されることが知られています。 これらの物質は新陳代謝を高め、筋肉や骨を成長させ、脂肪を分解して健やかな体を保ってくれますが、 近年では記憶に関わる神経細胞を守ったり増やしたりという働きもあることも報告されています(※2)。 寝れば神経細胞が増えるという単純な関係ではないものの、少なくとも寝不足で神経細胞が増えにくくなることは分かっています。
脳を守るためにも寝不足は避けたいところです。
睡眠と運動
このように睡眠には記憶や新陳代謝を高める役割がありますが、寝付きの悪い人や眠りの浅い人はどうすればよいのでしょうか。 これについては、様々な研究から日中運動することで夜の眠りも深くなることが分かっています。
睡眠障害患者を対象にしたいくつかの研究では、少し汗をかく程度の運動を週に90~120分、3~4ヶ月行うことで、寝付きが良くなり、睡眠の質が改善することが報告されています(※3)。
まとめ
このように睡眠や運動は、新陳代謝や免疫機能、神経新生など、心身の成長に密接につながっていることが分かっています。 寒い冬の日は外へ出るのもおっくうですが、最近では屋内で手軽に運動できる動画もいろいろとあります。
眠りと成長を深めるためにも、すこし体を動かしてみましょう!
【参考文献】
(※1)Stickgold R. (2005). Sleep-dependent memory consolidation. Nature, 437(7063), 1272–1278.
(※2)Chennaoui, M., Léger, D., & Gomez-Merino, D. (2020). Sleep and the GH/IGF-1 axis: Consequences and countermeasures of sleep loss/disorders. Sleep medicine reviews, 49, 101223.
(※3)Yang, P. Y., Ho, K. H., Chen, H. C., & Chien, M. Y. (2012). Exercise training improves sleep quality in middle-aged and older adults with sleep problems: a systematic review. Journal of physiotherapy, 58(3), 157–163.
【シュガー先生 プロフィール】
本名:佐藤洋平(さとう ようへい)
脳科学専門のコンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表。理学療法士。現在富山大学医学博士課程にて心と体の関係についての研究を行う。
日本最大級の脳科学ブログである「脳科学 心理学 リハビリテーション」にて、ヒトとはなにか、をテーマに脳科学を超えて学際的な立場から記事を執筆中。
趣味は料理、人間観察、読書(人間に関するものであれば社会学から哲学、経済学まで全般)、語学(フランス語)。
屋号のオフィスワンダリングマインドは、心理学のmind wandering(心のお散歩、ぼんやり頭、ひらめきの源泉)に由来。